再生発泡ゴムの未来:リサイクル技術の最新動向とサーキュラーエコノミーにおける実践ガイド
2025.09.24

はじめに:なぜ「再生発泡材」が注目されているか
地球温暖化・資源枯渇・廃棄物問題といった環境課題に対し、「使い捨て」「焼却」「埋立」という従来の廃棄モデルは持続可能ではなくなってきました。そこで サーキュラーエコノミー(循環型経済) の観点から、ゴム発泡材を含むゴム製品のリサイクル・再生化が海外・国内ともに強く求められています。
発泡ゴムスポンジは軽量でクッション性や断熱性が高いため広く使われていますが、その発泡構造ゆえに廃棄後の処分が難しく、マテリアルリサイクル率は低めという課題があります。この記事では、「再生発泡材」の定義・最近の技術トレンド・国内外の事例・調達・実践時の注意点を「ゴムスポンジ調達ナビ」視点で整理します。
再生発泡材/リサイクルゴム素材の基本
まず基本事項を整理します。
- 発泡材(スポンジ):閉孔セル発泡・開孔セル発泡あり。軽く、クッション性・断熱性・音響特性などに優れる。ゴム発泡やウレタン発泡が代表。
- 再生発泡材:廃発泡材や発泡ゴムスクラップ、製造過程の切れ端・端材などを回収/粉砕し、新しい発泡材に混ぜるか、発泡構造を再生成して使うもの。
- リサイクルの種類:
- マテリアルリサイクル(素材として再利用)
- ケミカルリサイクル(分解・再合成など高次な処理による原材料として再生)
- サーマルリサイクル(燃料または熱エネルギー回収)
再生発泡材を用いることで、廃棄物削減・CO₂排出量低減・資源の循環利用が期待されます。
最新動向:国内外の技術とプロジェクト
以下、最近の技術開発・プロジェクト・市場動向を整理します。
1. デバルカナイゼーション(除硫架橋結合の切断)
ゴム(特に加硫ゴム)は硫黄架橋構造が物性を支えるが、これがリサイクルの障壁。デバルカナイゼーション技術は、この硫黄結合を選択的に切断し、ゴムポリマー鎖をできるだけ保つことで、物性低下を抑えて再利用可能にするものです。最近、EPDMなどでこの方式の開発報告があり、処理時間・エネルギー効率が改善されているものの、バッチ間の品質のばらつきが課題とされています。
2. マテリアルリサイクル(スクラップ・クラムの再利用)
製造ラインから出る切り落とし端・発泡加工の過剰品などを 粉砕 し、新しい発泡ゴムまたはゴム複合材に含有させる方式が増加中です。再生ゴム配合率を高めることでコスト・CO₂削減効果がありますが、配合率が高すぎると物性(引張強度・伸び・耐候性など)が低下する。用途設計や品質管理が重要です。
3. ケミカルリサイクルおよび分解・再合成
より高性能が求められる用途を念頭に、ケミカルリサイクルが注目されています。ゴムや発泡材を分子レベルで分解し、原料(モノマー or オイル等)に戻して新たなゴム材料を合成する技術。現在はパイロリシス(熱分解)や他の分解技術が研究中。コスト・エネルギー消費・環境規制対応(排ガス等)が主要なハードル。
4. プロジェクト/社会実装の例
- B.G.S社(タイ):ゴム廃材(製造過程スクラップ含む)をマテリアルリサイクルし、「EKO Rubber」として製品化。天然ゴム、EPDM、CR、NBR 等多種のゴム素材を扱い、品質レポート・外部認証の対応も進めている。自社製品の原料回収など「静脈産業」の実践例として注目。
- 国内調査(独立行政法人等):樹脂・ゴム材料のリサイクル動向調査において、再生材の特性・用途・製造スケール・流通価格などが把握されており、再生発泡材の利用拡大が政策的にも後押しされつつある。
- 欧州プロジェクト:Circular Foam:発泡材の廃棄ストリームを都市規模で収集・化学的アップサイクルして、フィードストックを再利用可能にする試み。ヴィルジン相当材への再生が目標とされている。
技術的チャレンジと解決への視点
再生発泡材を導入・普及させるうえでの主な課題と、それに対する対策を整理します。
課題 | 内容 | 対策・政策的・技術的なアプローチ |
---|---|---|
物性の劣化 | 粉砕・発泡再加工時にセル構造破壊、架橋構造の損傷などが生じ、強度・伸び・耐久性が落ちる | デバルカナイゼーション技術、部分的配合比制御、セル構造の再設計、複合材化 |
コスト・エネルギー投入量 | ケミカル処理や精密な除硫架橋の処理は高コスト・高エネルギー | 効率的工程設計、省エネ装置、補助・補助金・政策支援の活用 |
品質・均一性の確保 | 廃材の種類・汚れ・添加剤の差などで仕上がりの再生材にばらつきがある | 廃材のソースを限定・分別、前処理(洗浄・切断・除塵)、品質検査規格の標準化 |
認証・規制対応 | 安全性・難燃性・毒性などの既存規格(UL, FMVSS, EN, JISなど)への適合が求められる | 再生材を混合する際にも規格試験の実施、試験片形状の確保、添加剤の制限、認証機関との連携 |
市場・需要の確立 | 再生材を使ってもコスト面・性能でバージン材と競合できない場合がある | グリーン調達・サステナビリティ要求を主張する顧客を開拓、企業のESG投資流れ、政府・自治体の補助策、環境ラベル取得などで差別化 |
サーキュラーエコノミー視点での調達・設計の考え方
リサイクル発泡材を調達・使う際には、単なる素材の選択を超えて以下の視点が重要です。
- 設計 for リサイクル(DfR:Design for Recycling)
発泡材・ゴムスポンジを使う段階で、後処理しやすい設計をする。容易に分解・分離ができる形状、異素材の混合を減らす、摩耗・劣化しにくい発泡セル構造を選ぶ等。 - 原材料のトレーサビリティ確保
廃材のソース・配合比率・前処理状況・添加剤の種類などをサプライヤーと明確にする。どのくらい再生材料が入っているか、どのような前処理がされているかが、品質・認証に直接影響。 - ライフサイクルアセスメント(LCA)の活用
CO₂排出削減量・エネルギー投入量・廃棄処分時の環境影響などを定量的に把握し、再生発泡材使用のコスト/環境優位性を見える化する。 - 調達ポリシーとサステナビリティラベルの取得
企業・自治体としてのグリーン調達基準を設け、再生素材使用を促進する。また再生発泡材自体が環境ラベルや国際認証(ISO14001等)を持っていると説得力が高い。 - 産学官連携および政策支援
新しいリサイクル技術(特に化学的リサイクルやデバルカナイゼーション)の実用化には研究開発費・設備投資が必要。政府補助政策や規制インセンティブを活用できるよう動くことが有効。
実践事例:再生発泡材を使ったゴムスポンジ/発泡ゴムスクラップの活用
以下は、ゴムスポンジ/発泡ゴムの再生材・再生発泡材を取り入れた具体的な事例です。
ケース1:国内メーカーによる発泡スポンジゴムの再生化技術
ある日本のゴムメーカーが、自社製ゴムスポンジの端材や発泡工程で出るスクラップを回収し、再生ゴム素材の利用を進めています。品質試験を重ね、発泡セルの均一性・クッション性・耐久性等を確保し、屋内用途・断熱用途等でバージンゴムとほぼ遜色ないレベルの製品を市場投入中です。
ケース2:海外企業による産業スクラップのマテリアルリサイクル(B.G.S 社)
前述のタイの B.G.S社 は、製造過程から出る様々な種類のゴム(天然ゴム、EPDM、CR、NBR 等)の廃材を回収し、クラム化・混合・成形し、EKO Rubber」ブランドとして再生発泡または再生ゴムシート・製品に再利用しています。廃棄コストの削減・CO₂排出削減の実績あり。しかも顧客から外部認証を求められることが増えてきており、環境ラベル・認証取得を進めている。
ケース3:発泡材料の化学的アップサイクルプロジェクト(欧州 Circular Foam 他)
欧州において「Circular Foam」プロジェクトなどが存在し、発泡の廃棄ストリーム(ポリウレタン発泡材など)を化学的にアップサイクルして、新品に近い原料(ヴィルジン等価)として再利用する流れが進んでいます。都市の廃発泡材収集→分離→化学分解→再び発泡原料というバリューチェーンを構築中。
調達ナビからのアドバイス:再生発泡材を導入する際のチェックリスト
再生発泡材を調達/仕様決定する際には、以下のチェックポイントを確実におさえましょう。
チェック項目 | 内容 |
---|---|
再生材料の種類と割合 | どのゴム種か(EPDM、CR、天然ゴム等)、どのくらいの配合率か。低すぎると環境メリットが薄、 高すぎると物性劣化の恐れあり。 |
発泡構造とセル密度 | 閉孔セル・開孔セル・セルサイズが発泡の再現性・断熱性・復元力に影響。再生発泡材でも同じ仕様が出せるか。 |
前処理・清浄度 | 廃材に混じる異物・着色剤・汚れなどの影響。洗浄・切断・脱脂など前処理が十分かどうか。 |
物性試験結果 | 引張強度・伸び・圧縮永久歪・耐候性・耐熱性など、用途に応じた性能値の提示。再生材混合後のデータがあるか。 |
安全性・規格対応 | 難燃性・毒性・臭気など。規格(UL94・EN45545・JISなど)に再生材を使った製品が適合しているか。 |
サステナビリティ証明と外部認証 | 環境ラベル(ISO 14001 等)、認証済製品か。CO₂削減量・ライフサイクル評価など。 |
コスト試算・ライフサイクルコスト | 材料コストだけでなく廃棄コストの削減、運搬・前処理コストを含めた全体コストで比較。 |
将来予測と期待される方向性
再生発泡材・発泡ゴムリサイクル技術の今後のトレンドとして、次のような方向が期待されます。
- 高性能・高付加価値用途への進展
現在は主に緩衝材・断熱材・マット用途など比較的要求が低い用途で再生素材が使われているが、難燃性・耐候性・機械的強度を保持できる再生発泡ゴムが、自動車部品・建築外装・鉄道車両など高要求用途にも使われるようになる。 - 化学リサイクル・分子再生技術の商用化
デバルカナイゼーションや分解再合成のプロセスがスケールアップし、安定供給できるようになることで、バージン材の代替として現実的な選択肢となる。 - 法制度・政策による後押し
環境規制(排ガス規制・CO₂規制・廃棄物処理規制など)の強化、グリーン購入法・公共調達政策、リサイクル含有率義務などが広がることで、再生発泡材の需要が急増する。 - デザイン革新・素材設計
発泡構造やセル設計・添加剤・発泡プロセス自体をリサイクルを前提に最適化する「デザイン for リサイクル」の考え方が主流化。素材の混合を極力避ける・素材標準化などが進む。 - サプライチェーンの透明性・デジタル技術の活用
廃材の追跡・品質管理・リサイクル履歴のデジタル記録化(デジタル素材パスポート等)が導入され、信頼できる再生発泡材の供給が確立。
結論:再生発泡材が拓く未来への期待
再生発泡材とリサイクル技術は、単なる「廃棄物削減の手段」から「持続可能な社会を支える基盤技術」へと位置づけが変わりつつあります。サーキュラーエコノミーの流れが強まる中で、今後は以下のような未来が期待されます。
- 完全循環型の素材利用:再生発泡材が原料調達の標準となり、一次資源への依存が大幅に低減される。
- 高機能リサイクル材の普及:従来の「リサイクル=低品質」というイメージを覆し、難燃性や耐候性など高度な機能を備えたリサイクル材が市場をリードする。
- デジタル技術との融合:AIやIoTによるトレーサビリティが確立し、リサイクル材の品質と供給の安定性がさらに高まる。
これからの産業は「安くて便利」だけではなく、「環境と共存する」ことが前提となります。その転換点にあるのが再生発泡材とリサイクル技術であり、日本国内でもグローバル市場でも需要は確実に拡大していくでしょう。